at the summer time. 「あー。あついー!!」 少年は、黒いアスファルトの上を走っている。 その斜め前を、その少年の友達も、ぶんぶんと、その手にもったタオルを振り回しながら走っている。 2人とも、年齢は7、8歳といったところか。 この季節にありがちな、うだるような暑い真昼である。 「しょうがないだろ。今は夏なんだから」 「わかってるよ!だからあついって言ってるんだよ!」 「あついあついって言っても、なんにもかわらないんだぞ!」 「それもわかってるよ!だけどあついって思うんだからしょうがないだろー!このひねくれあまのじゃく!」 「ぼくはひねくれでもあまのじゃくでもない!もうちょっとだけガマンしろ!!」 青い空。頭上から刺すように降り注ぐ日差しを縫って、2人は駆けていく。 「あーあついあつい!!」 まだタオルを振り回し、あついあついと嘆く友達を横目でじろりと睨みながら、少年は大きな坂を下っていった。 あついあついと言いつつも、駆けるスピードはいつも以上。 クラスの中でも一、二を争う速さで、少年の友人は坂道を下る。 少年の家は坂の下にある。 2人は少年の家で涼むことのみを頭に、目的地を目指している。 と。 「うわっ」 少年の斜め前を走っていた友達が、角を曲がったところで突然立ち止まった。 いきなりの出来事に、そのオレンジ色の頭にぶつかる。 「なんだよ」 頭をさすりながら、前を向いたままの少年が振り返るのを待つ。 すると、今まであついあついと言い続けてきたその表情とは打って変わって、満面の笑みを浮かべて振り返り、言った。 「アスラン。このまえ言ったこと、おぼえてる?」 その、きらきらとした瞳にびっくりする。首をかしげる。 「この前。」 「そ。おれのゆめ」 「あ。」 「おもいだした?」 「うん。」 続きを言おうと開きかけた口を征し、少年の友達は指を指した。 「・・・・すごい。」 その青い空に、まっしろなライン。大きな、長い飛行機雲である。 「すっげーだろ!?」 少年はしばし呆気にとられる。見たこともないような、とても長い飛行機雲。 青の空を真っ二つにするかのように伸びる、その白い直線。 「おれ、ぜったい、ぱいろっとになるよ」 横で、頭上に浮かぶ太陽のような笑顔を浮かべた、少年の友達は言った。 少年は、友人のこの笑顔が好きだった。 自分と正反対の明るい性格。 なんだかんだ言いつつも、それを象徴するかのようなまぶしい笑顔には、いつも救われているのである。 恥ずかしいので、そんなことは絶対に口には出さないけれど。 この少年は、少々意地っぱりである。 「で、あんなかんじで、青い空を、どかーんと、つっきるんだ」 「だからラスティは、ぱいろっとになりたいのか」 「そう。すっげぇだろ?」 少年はまた、空を見上げた。 正確に言えば、その青に浮かぶ白いライン。飛行機雲を。 「すごいよ。」 「だろ?すっげぇだろ?」 少年の友達も、つられて顔を上げる。 2人は食い入るように、そのラインを見た。希望に満ちた目で、その白を仰いだ。 夏の、日差しの強い日の午後である。 しばらくして、2人はゆっくりと歩き出した。 満ち溢れる充実感を抱き、胸にそうっと閉じ込めた。 暑さはもう、気にならなかった。 「だからさー。アスランもぱいろっとになろーぜ」 照り返しの激しいアスファルトの上。 しばらくしてそう切り出したのは、少年の友人だ。 「ぼくも?」 驚く少年をよそに、友人は得意げに答える。 「そうだよ!で、2人でぱいろっとになって、2人で、あのでっかいひこうきをとばすんだ」 「それで、青い空を、どっかーんと、つっきるのか?」 「あたりっ!ひこうきにのれるのは、いまのところ、ぱいろっとだけなんだからな」 「おきゃくさんも、のれるだろ」 「あ。そうだった。でもさ、好きなほうにうごかしたり、そうじゅうできるのは、ぱいろっとだけってきまってんじゃん」 「それは、そうだけど」 「なんだよ。アスランはぱいろっとイヤなのかよ」 「そうじゃなくて。」 「じゃ、どうして。」 少年の頭を、一抹の不満が掠めた。白いライン。あれはどこまで続いているのだろう。 どこまでもどこまでも。なぜか、底知れぬ恐怖を感じる。 「ぱいろっとって、ひこうきを、とばすだけなのかな」 「はぁ?とばすだけに、きまってんだろ」 「せんそうになったら、ばくだんをおとさなきゃいけないよ」 「ばか。せんそうなんて、おきてないじゃん」 「そうだけど。」 「むっかし、そうとうむかしにあったらしいけど。でも、そんなこといってたら、なんにもなれないぞ」 「そうかなぁ。」 「だいたい、アスランはしんぱいじょーなんだよ。アレ?しんぽいじょー。しんぼーしょーだっけ?」 「むずかしいことば、なれてないのにつかうなよな」 「うるせー!おれはぱいろっとになるんだぞ。あたまだって、よくなくちゃいけないんだ。いまからきたえるんだ。アスランもてつだえよ」 「なんでぼくが。ラスティひとりでやれよ」 「アスランもぱいろっとになるんだろー?なら、今からきたえないといけないじゃん」 「そんなの、もっと大人になったときにきたえればいいんだよ」 「らっかんしゅぎ、だな」 「こんどはちゃんと言えたな」 「もちろんだ。おれはぱいろっとになるおとこだ」 「なんか、きいたことあるようなせりふだな」 「あ!レノアさんだ!」 「あれ?ははうえ。」 アスファルトの遠く先。少年たちの目指したところに、ひとりの女性が立っている。 その顔には、苦笑と笑顔が混じった顔。少年の、母親だろうか? 「アスラン、家まできょうそうだー!!」 「あ、ずるいぞ!!」 2人は駆ける。 少年のシャツと友人のタオルが、青い空を掠めていく。 時は正午。この季節にありがちな、うだるような暑さである。 ここのラスティは、ちびのころから口が悪い。(捏造) |